1859年の開港より、日本三大貿易港の一つとして栄えた横浜。街を歩けば、今も色あせない歴史の面影が、いたるところに見つかります。そのひとつが、ここ、クリフサイド。横浜で大活躍中のDJ栗原さんとキャロル山崎さんが贈る、ジャズとダンスミュージックの愉快なトークセッション。昭和のノスタルジー溢れる幻想的な空間に、今、新しい音楽の産声が聞こえてきそうです。
山崎 私は横浜山手に住んでいますが、栗原さんも同じ地域なんですよね。今日は同じ地元同士で宜しくお願いいたします。ここクリフサイドは横浜のジャズ発祥のホールで、私もジャズシンガーですが、ぜひ栗原さんの好きな音楽を教えてください。
栗原 僕は、もともと東京でディスコをやっていました。好きな音楽は、ダンスミュージックです。ディスコソングでいうところのNY系、R&B、それからハウスミュージック。ソウルフルなダンスミュージックが好きなんでしょうね、たぶん。今はEDM(エレクトリックダンスミュージック)といって、スマホやPCで曲を打ち込んだものを、そのままアップデートしてダウンロードサイトで売れちゃって、誰にも会わずに1位が取れてしまうような時代なんですよ。あと、なぜかサビに歌が載らないんです(笑)
山崎 そうなんですか。ジャズは、どれだけ練習して、曲を聴き込んで、キャリアがあって、人生観を出せるかが問われるので、真逆ですね。だから今のお話を聞いて、あーそこまでいっちゃったのかーって(笑)
栗原 例えば、去年グラミー賞を獲ったダフトパンクというユニットは、ヘルメットをかぶってロボットの格好をして、生身の形を出さないんですよ。そこに、ナイル・ロジャースにギターを弾いてもらって、生身の音を入れたらグラミー賞を獲ったんですよね。だから、結局はそこに帰るんだなと思います。
山崎 突き進んだデジタルに対して生身が入った方が音楽的なんでしょうね。
栗原 ですから、今一番EDMの若い打ちこみのDJクリエーターたちが重宝しているアーティストは、ナイル・ロジャースを始めとする70代の人たちなんです。
山崎 素晴らしい!先輩と後輩が巻き込み合うのは、音楽的にも最高です。ク リフサイドは今年70周年で10月には記念イベントが開催されますが、プロデューサーの泰地虔郎さんを始め横浜のジャズプレイヤーが大集合します。若い人にも、どんどん来てもらいたいです。
栗原 僕はジャズもけっこう好きでして、今日は何かジャズのお話を伺いたいなと。
山崎 1920年代の曲は、今も変わらず輝きを放っていますけれど、70年代の カーペンターズやビリー・ジョエルなんかも、ジャズのコードアレンジによって「ニュースタンダード」として親しまれています。同じ伝統を守るだけじゃなく、そこに何か化学反応が生まれて、ミュージシャンも曲も進化し続けていく音楽だと思うし、毎回同じ曲だとしても新鮮な感覚で歌えて面白い。既に皆が知っている曲をどうやってフレッシュにできるかが、ジャズの醍醐味だと思います。
栗原 素敵ですね。あと、キャロルさんはライブをするときに、お客さんを盛り上げたいっていうサービス精神と、作品としてのクオリティやパッケージを求める気持ちと、どっちに走るタイプですか?
山崎 すごく的確な質問でびっくり!まったくね、どちらの方に走るかは考えてないんですけれど、やっぱりお客さんのことを考えますね。それから、分かりやすくやること。クオリティを保ちながら、例えば十曲中いくつかは必ず知っている曲を選んでみたり。なんとなくバランス感覚を保ちながら突っ走ることもなかったし、ずっとこういうスタンスかなって思いますね。やりたいことも、まだまだいっぱいありますよ。
栗原 ちなみに、それはどんなことなんですか?
山崎 音楽を使ったコメディをやりたいんです。全部仕組まれた、志村けんさんみたいな、ああいうことを何人かでやってみたい(笑)。
栗原 変わってますね(笑)。
山崎 あとは、鈴木邦彦先生が作曲された名曲「ヨコハマ・レイニー・ブルー」 を歌わせていただくことになりましたが、そんな風にキャロルが歌えばあれもジャズだしこれもジャズ、そういう〝キャロル商店〟みたいになればいいなあと思っています。歌でも、コメディでも、「キャロル商店で今日はこれ売ってんだね!」と言ってもらえるような。中には、泰地虔郎さん作曲、私が作詞した横浜のためのジャズソングも並んでいますよ。
栗原 なるほど、キャロル商店……。
山崎 何か、夢とかあります? これからこうしたいとか。
栗原 そうですねー。いろいろありすぎて、何を夢にしたらいいんだろう(笑)。 ちょっと夢というよりは、義務として、やっぱりラジオを復活させないといけないかなって。若い人はラジオを知らないんですよ。昔、受験生がラジオをひそかに聞いていたのと同じように、今、親に見られないようにスマホをいじるじゃないですか。スマホがライバルなんです。リスナーたちが40代以上に持ち上がっているから、若い人たちにもラジオを聴いてもらわないといけないですね。
山崎 当時は受験のときに、ラジオの声やパーソナリティの人柄によって「変 わった!」というエピソードが、たくさんあった訳ですよね。
栗原 要は、今はDJの声じゃなくて、SNSで知り会った子とやり取りして、 「頑張ってね」とか、そういうことです。
山崎 なんだか残念な感じ。でもそうなると、やっぱり復活っていうことですよ ね。古き良きものを愛する人たちが少しずつ増えて、足下とか学校とかが明るく照らされるといいですね。クリフサイドにも、これからいろいろなアーティストが訪れて、ますます永く愛され続けていくことを、私も願っています。栗原さん、今日はありがとうございました。
栗原 こちらこそ、ありがとうございました。